学校の先生へ

FOR TEACHERS

三重県の不登校を取り巻く環境

増加する一方の不登校数(2022)は、小学生は10年前の3.6倍、中学生は2.1倍に増加しています。たくさんの子どもたちの成長に公平に取り組まれる先生方にとって、増加する不登校の子どもへの支援や関りは戸惑われる場面が多いのではないでしょうか。2024年4月、三重県教育員会は不登校支援の考え方に関する通知を出しました(https://www.pref.mie.lg.jp/SEISHI/HP/p0013700017.html)。この通知では「子どもと保護者に寄り添った支援」を大切にしています。

当事者の声

「子どもと保護者に寄り添った支援」のためには、当事者の声を聞くことはとても大切です。
当ネットワークでは、不登校経験者・保護者に直接聞き取り調査をさせていただきました。今後も、聞き取り調査を継続し、掲載させていただきます。

Q&A

このQ&Aは、学校の先生からの質問や保護者との相談をもとに作成しました。先生方が、当事者視点の支援に取り組まれる際に、少しでもお役に立つことを願っています。

監修:みえ不登校支援ネットワーク 会長 西田寿美、副会長 志村浩二
編集:同事務局代表 石山佳秀

Q

登校した時に「がんばって、よく来たね」と褒めていますが、これはいいことなのでしょうか?

A

登校した際に、「がんばったね」と褒められることで、その時は嬉しいと感じる子どもは多いかも知れません。
ただ、その言葉は、子どもによっては、登校しないとき(できないとき)にも子どもの心に響くことがあります。子どもによっては「がんばれない自分はダメ」だと自己否定感を深めることにならないでしょうか。子どもへの評価につながらない、自然な声かけを心がけていただければと思います。

Q

いい思い出にしてほしいので、修学旅行に行かせたいのですが?

A

本人が本当に修学旅行に行きたいのであれば、周囲の方々の協力体制を作りながら、参加を実現されるのはいいことでしょう。
しかし、子どもが無理をして修学旅行に行った場合、その後は完全に学校に行けなくなるケースがとても多いです。
修学旅行の期間、周囲に気を使いとても無理をしていたのではないでしょうか。
まず、子どもがどうしたいのかを大切にしながら、一部の参加など、支援の幅を広げながら考えていくことが大切です。その際、参加しないという選択肢も必ず提示してあげてください。

Q

保護者が定期的な家庭訪問を希望してますが、どうしたらいいでしょうか?

A

子ども本人が家庭訪問を希望しているのであれば、先生の可能なお時間で家庭訪問ができればいいと思います。
ただ、子どもの希望ではなく、保護者の希望にそった家庭訪問は子どもを追い詰めることもあります。
子どもの本心を応援することを、まず、保護者と先生が共有することが必要ではないでしょうか。
一方で、保護者の方が家庭訪問を望まれているのであれば、それには理由があります。家庭訪問でないやり方でもいいので、その点での保護者そのものの話を聞いていくことは大切です。

Q

他の子どもたちに「学校に来るように」誘いに行かせたいのですが?

A

友だちとの自然な関係は大切ですが、大人の意図で子どもを動かすことはやめた方がいいのではないでしょうか?
友だちに誘われたのに学校に行けなければ、本人は友だちとの約束を破ってしまったと感じ、さらに学校に行きにくくなることもあります。子どもたちの自然な関わりができるような支援を保護者とともに考えてあげてください。

Q

毎週、家庭訪問をしていますが、子どもは無理をしていないのか気になります...

A

学校を欠席しても、先生の訪問がつらいお子さんは、なかなか心が休まりません。一度、お子さんの本心を保護者を通じて確認されてはどうでしょうか?
例えば、「無理してない?」「先生には断ることもできるよ?」と聞いていただいて、無理をしている場合は、訪問をしない方がお子さんの回復につながると考えます。その際、「訪問してもいい時は、また、訪問させてほしい」と伝えられてはどうでしょうか。

Q

高校で不登校をしている場合、転学するタイミングをどう考えればいいですか?

A

高校は単位が取得できないことにより、進級できないことがあります。なるべく本人がよりしんどくなる前に転学を決められるといいと思います。
通信制高校などへの転学は、早い方がその年度の単位が取得しやすくなります。
ただ、本人が今の高校での卒業にこだわっているのであれば、納得して決めるまでの時間が必要です。
何年か後に、「あの時、転校を決めたのは自分の意志だった。」という記憶になるように本人と関わることが大切だと考えます。

Q

中学で不登校の支援をしていますが、高校は進学させたいと考えています

A

本人に合った新しい環境の高校に進学して、充実した高校生活を送る子どももいます。全日制、定時制、多様なスタイルの通信制など選択肢も増えています。
しかし、人と会うことを避け、極端に人の評価が気になる状態のお子さんが進学して、当初より通えないケースも多くあります。そのような場合、周囲が大きな期待を寄せていると、お子さんを追い込むことになります。
高校進学は、成長の一つの過程で全てではありません。大きな期待でプレッシャーを与えないように、お子さんの歩みを保護者とともに相談していくことが大切です。その際は、進学先への十分な引継ぎをお願いします。また、高校年代の子が相談できる県立教育支援センターこもれびについて情報を伝えてあげると安心できるひとつの材料になると思います。

Q

進路を目標に学校に来させたいと考えていますが、どうなのでしょう?

A

自分の将来を一番心配しているのは本人ですが、今は「進路」を考えたくないと思っているお子さんもいます。大きな決意をして入学した高校で登校しづらくなることや不登校をすることもあります。
その時に自己否定感を深めないような対応を考えておくことも必要です。
例えば、事前に、入学した高校が自分に合わなければ転学して、やり直せることをお話しておくのも一つの方法です。

Q

子どもは登校したときに楽しそうに見えるのですが本当に楽しいのでしょうか?

A

不登校の子どもが学校に行くと周囲に気を使って、笑顔でいることはよくあります。それを、勘違いして無理に学校に行かせることで、本人は疲弊するかもしれません。また、いつも学校では別の自分を演じることで、無理をしている子や自己否定感を深める子もいました。そのことを頭に入れて声をかけることで子どもの感じ方は変わってくるのではないでしょうか。

Q

保護者が甘やかしているように見えるのですが?

A

不登校のお子さんを、初めから安心して受け入れられる保護者の方は稀です。
ほとんどの保護者は、大きな不安と葛藤の中でお子さんと向き合っています。「甘やかしている」のでなく、お子さんと肯定的に向き合おうとしているのではないでしょうか。
確実に言えることは、不登校状態で結果的に親子関係がぎくしゃくしてしまうことはありますが、「甘やかしが不登校になる」ことはどこにも根拠はありません。反対に、もしお子さんの成長に無関心のようであれば、福祉などの支援と連携することが必要になってくると思われます。

Q

別室登校ができた子を、教室に連れていきたいのですが?

A

別室(校内教育支援センター)登校から教室へ入る場合も、子どもの本心を尊重していただきたいです。
無理に教室に連れていくことで、学校の先生や支援者を信頼できなくなり、それ以後、学校に登校できなくなることもあります。
ステップアップさせていきたい気持ちは先生にも、保護者にも少なからずあると思います。しかし、精いっぱい頑張っている状態で「もっと頑張れ」と言われたらどうでしょう。無理に教室に連れていくことで、学校の先生や支援者を信頼できなくなることもあります。
子どもの気持ちに寄り添いながら、焦らず支援することが大切です。

Q

行事や部活だけでも参加させたいと考えています。

A

本人の安心や喜びにつながるのであれば、行事や部活に参加することは大切な機会になります。
しかし、「行事や部活だけでも学校に行かなければ」という思いや授業に参加していない後ろめたさがあれば、参加しても自己肯定感にはつながらないのではないでしょうか。
そのような時間を重ねる分、後からしんどくならないでしょうか。
本人の願いを聞き、参加したいというのであれば、一部参加などさまざまな支援を提示し、本人が決断できるようにしてあげてください。ただ、その時もその場の判断で途中で抜けることができるような体制を整えておくことが望ましいと考えます。
「~させたい。」ではなく「~したい。」を大切にしてください。

Q

子どもが通い始めたフリースクールとの連携はどのようにしたらいいですか?

A

フリースクールは多様であり、不登校支援に関する考え方も異なります。本人が通われるフリースクールの方針などをご理解された上で、連携されることが子どもの利益につながります。
フリースクールの見学や懇談ができるところもあります。
また、毎月、子どもの支援シートを学校と共有することで、子どもを中心にした支援が可能になると考えます。

三重県教育委員会の支援シート
Q

訪問でなく、電話で子どもの様子を聞きたいのですが?

A

訪問は、そのご家庭に緊張をもたらすこともありますので、お電話の方が負担をかけずに様子を聞けることもあります。
ただ、お時間やご家庭の環境によっては、子どもに話しが聞こえる場合もあります。
もし、保護者がご自分の葛藤などを話されれば、その話を聞いた子どもが傷つきます。
お電話することの了解を得ることと、お電話の時間や環境に配慮されることが必要になります。

Q

宿題や長期休みの課題をさせたいのですが?

A

宿題や課題について、お知らせすることは必要なことかも知れませんが、宿題をやっていないと「学校には行けない」と感じる子もいます。
勉強や課題は、各人の学力や事情を考慮して対応することが大切ではないでしょうか。宿題や課題は、ある程度「心の安定」が得られてから湧いてくる「自己を高めたい」段階になってからの話です。やはり、まずは心の安定と「そのための毎日の安心」を得られることがお子さんにとっては先決のこともあります。

Q

評価はどのようにしたらいいのでしょうか?

A

不登校の自分に罪悪感を抱いている子どもは多いと思いますが、その自分を学校の先生から通知表によって評価される子どもの心中はどのようなものでしょうか?
子どもの学習の状況や頑張りを評価することが大切です。文部科学省の令和元年の通知でも、「ICT等を活用した学習活動の成果を評価に反映する場合の指導要録への記載については、必ずしもすべての教科・観点について観点別学習状況及び評定を記載することが求められるのではないが、児童生徒の学習状況を文章記述するなど、次年度以降の指導の改善に生かすという観点に立った適切な記載がなされるようにすること」とあります。 また、通知表その他の方法により、児童生徒や保護者等に学習活動の成果を伝えたりすることもできます。
子どもと保護者と相談していただいて、最も本人が受け止めやすい形を考えられてはどうでしょう。

Q

本人への声のかけ方が難しいのですが、どうしたらいいでしょうか?

A

子ども自身を苦しくさせるような声かけにならないよう、言葉を選んでいくことが大切ではないでしょうか。
不登校の子どもの中には、学校の先生から投げかけられる言葉や登校刺激に対して強い不安を感じたり、警戒している子もいます。
お立場を考えれば、すぐに学校の話をしてしまいがちですが、本人の関心にあった雑談を交わすことも子どもと通じ合うための声かけの1つだと思います。

Q

不登校の子どもとの大切にしたい向き合い方は?

A

不登校の子どもを特別視することやジャッジをしないで、他の子どもたちと同じように向き合えたらいいと思います。
また、子どもを尊敬・信頼することを大切にして、子どもの本心に沿った試行錯誤を応援するのが良いと思います。

Q

不登校支援に関する県教育委員会の方針を知りたいのですが?

A

令和6年4月に県教育委員会は、三重県不登校児童生徒支援推進検討会の協議に基づいて「三重県における不登校児童生徒への支援の推進について」と「子どもと保護者に寄り添った支援をするために」の通知を出しています。詳しくは、下記サイトをご覧下さい。

令和5年度三重県不登校児童生徒支援推進検討会について

監修:西田寿美 特定非営利活動法人 ライフ・ステージ・サポートみえ
   志村浩二 浜松学院大学短期大学部 幼児教育科 子どもの未来創造センター長 教授
編集:石山佳秀 認定NPO法人 フリースクール三重シューレ 代表